「白樺派」有島武郎が、大正7年、旺盛な作家活動に入り物した秀作。翌年、本格的リアリズム文学『或る女』を世に問うた。妻を失い、新しく芸術に生きようとする作家の覚悟と、残された小さき者たちに歴史の未来をたくそうとする父性愛にあふれたある夜の感想を綴る『小さき者へ』。“君"という語りかけで、すぐれた画才をもちながらも貧しさゆえに漁夫として生きなければならず、烈しい労働と不屈な芸術的意欲の相剋の間で逞しく生きる若者によせた、限りない人間愛の書『生れ出づる悩み』の二編を収める。詳細な注解、解説、年譜を付す。目次小さき者へ生れ出づる悩み注解 三好行雄有島武郎 人と作品 瀬沼茂樹『小さき者へ・生れ出づる悩み』について 本多秋五年譜※電子書籍版には解説は収録しておりません。本書収録「小さき者へ」より冒頭お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。時はどんどん移って行く。お前たちの父なる私がその時お前たちにどう映るか、それは想像も出来ない事だ。本書解説「『小さき者へ・生れ出づる悩み』について」より彼はもっとも正統的なリアリズムの作家にちがいないのだが、彼の作品にはわれわれの日本的現実感に何か馴染みにくいものがある。(中略)これらは私がひとり考えでそう思うのであるが、そこから私は有島武郎をかなり難解な作家ではないかと思っている。しかし、『小さき者へ』と『生れ出づる悩み』は、いわば人としての有島武郎を直接にあらわしている単純な作品(こういう作品は有島に多くない)で、一読して誰にもわかる通りの作品であって、ほとんで解説の必要をみないと思う。――本多秋五(評論家)有島武郎 (1878-1923)明治11年、東京生れ。札幌農学校卒業後、3年間アメリカに留学。帰国後、母校の英語教師となる。明治43年、創刊された雑誌「白樺」の同人となり、文学活動をはじめる。大正5年、妻と父の死を機に、本格的な創作活動にはいり、『カインの末裔』『小さき者へ』『生れ出づる悩み』などを次々に発表。大正8年には改稿をかさねた『或る女』を完成するが、第1次世界大戦後の社会運動の波に内的動揺をきたし、大正11年、有島農場を解放。大正12年、波多野秋子と共に自殺。
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